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画竜点睛

2022.5.25

画竜点睛

 中国の故事に端を発するこの言葉、故事成語の中では比較的よく耳にする言葉です。
意味は物事のもっとも重要な点。肝心要な点。後に肝心な部分が抜け落ちていることを
「画竜点睛を欠く」と言うようにもなりました。読みは「ガリョウテンセイ」。よく見ると「睛」の字は「晴」ではなく「睛」。偏は「目」です。

 私も還暦を今年迎え、そろそろ人生も仕上げに入る頃。私にとって人生の「肝心要なもの」は何かと時折考えるようになりました。残りの人生をどのように過ごせば「幸せ」と言えるでしょうか。良く言われていることは、60を過ぎたら好きなことだけをするということです。好きなことだけをして、嫌いな人とも付き合わない。でも、職業人として現役であれば、それは中々難しい。そこで今、何とはなしに趣味の時間を増やすようになりました。

 最近、高校生の時代に好きだった(少し感傷的ではありますが)立原道造の詩集を改めて手に入れ読んでいます。これはヤフオクで手に入れました。わざわざ神保町で古本屋さんを捜し歩かなくとも手に入る。「今ドキ」です。が、本当はむしろ神保町を巡りたいのです。
捜し歩く過程が好きです。本に囲まれる、あの空間も好きです。古い紙の匂い。少し埃っぽい空気も。もしかしたら、お目当てのモノには辿りつかず違うものを購入するのかも知れない気持ちの揺らぎ。そんなものの全てが好きです。

 最近と言えば、ここ一か月の間はよく旅をしました。旅は仕事絡みが多いのですが、合間を縫って美術館に行くのを楽しみにしています。東京の国立西洋美術館、国立博物館、東京都立美術館、新国立美術館。倉敷の大原美術館。この一か月の間に訪れた所です。絵そのものを鑑賞する事と同じように、その空間を味わう。お目当ての絵画がどのような場所にどのような形で展示され、実物の尺はどうか。実物の尺については時々驚かされます。有名なレオナルド・ダビンチの絵画「モナリザ」は想像していたより小さなものだったり、美術の教科書に出てくるミケランジェロの「ダビデ像」は見上げるほど大きなものだったり、足を運び体験しなければ感じられない、その体験そのものが好きなのかも知れません。
 気づくと子供の頃から好きだったものを今、追体験しているような気がします。

 少し話は変わりますが、キャリアカウンセリングの中の一手法としてナラティブ・アプローチという手法があります。クライアントが語る「物語(narrative)」を通して解決策を見出していくアプローチ方法です。「子供の頃に憧れていた人」「好きだったTV番組」「やってみたいと思ったことのある職業」。そんな自分自身に固有の物語を丁寧に語っていくのです。
 今年に入ってからの私の追体験とは、そんなナラティブ・アプローチの中で自分自身が語る物語を今この時に体験しているような気がしています。今が人生の分岐点に私自身がもしかしたら立たされているのかも知れません。

 「画竜点睛」。これからの時の中で人生の仕上げをするのなら、今更ながらギャップアプローチ(無いものに焦点をあてる)ではなく、ポジティブアプローチ(持っているもの)に焦点をあて、好きを形にして生きていきたいと思う今日この頃です。

専務理事 由木 千尋

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