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『常勝集団のプリンシプル』に学ぶ

2023.10.25

 昨今の日本のスポーツは少しずつ世界という土俵で戦えるようになってきました。ラグビー、サッカー、バレーボール、バスケットボールなど、現在世界に向けて上向きになってきた競技が多くなりました。トレーニング技術の向上だけでなく、メンタルトレーニングの成果や、組織的なマネジメントの向上、そして、サポーターを巻き込んだ体制づくりなど、さまざまな面で日本のスポーツ界が進化しているのだと思います。

 その中でも、今夏の甲子園大会で慶応高校が優勝したことは、自分にとって印象深いものでした。長髪などが大きく注目されたりしましたが、やっぱり、自分たちで創意工夫して取り組んだ結果、優勝したことはインパクトがあります。私自身も長年中学校野球の指導に携わってきましたが、決してほめられた指導をしていたわけではありません(むしろ、問題が多かったかも?)。人の成長などを追求するようになった現在、慶応高校の監督の先生のお考えや指導方法に大いに納得するものがありました。

『常勝集団のプリンシプル』に学ぶ

 選手の主体性を基盤にした取り組みといえば、「常勝集団のプリンシプル」という本の著者である岩出雅之(いわでまさゆき)さんを思い出します。現在、帝京大学スポーツ医学センター教授である岩出さんは、言わずと知れた前帝京大学ラグビー部の監督でした。帝京大学ラグビー部といえば、2009~17年に大学選手権9連覇を成し遂げたチームです。某プロ野球球団が9連覇した頃とは違い、21世紀に入っての9連覇はどれだけすごいことなのか考えると、もう二度と破られることがないのではないかと思います(某プロ野球球団の9連覇が意味がないと言っているわけではありません)。岩出さんは監督になったばかりの頃、他の大学と同じように、いわゆる体育会系の指導をしていたそうですが、勝てなかったそうです。そこで、心理学などを学んで、しっかりした理論的根拠を持って部活動の体質を改め、ラブビーの練習方法、そして、選手がラグビーを通してどうなれば良いかを考えたそうです。その結果が9連覇なのです。

 「常勝集団のプリンシパル」には、学校や企業の参考になりそうなことがたくさん書かれています。最高に集中して物事に取り組む状態をフローと言いますが、それに入るための鉄則の一つとして、「楽しさ」を活動の中心のおくとされています。

「楽しさ」というと、すぐに「スポーツはそのように甘いものじゃない!」とお叱りを受けそうな気もしますが、マッキンゼーのニール・ドシとリンゼイ・マクレガーの研究によって、人が最もやる気になるのは「楽しさ」を感じる時であるということがすでに証明されています。そして、2番目は「目的」であり、3番目は「可能性」を感じることです。これらをドシらは「直接的動機」と名付けています。

 逆に、パフォーマンスを下げるものとして「間接的動機」というものがあります。周りからどう思われているかを動機とする「感情的圧力」、失敗すれば試合に出してもらえない、給与が下がるなどの「経済的圧力」、そして、ただなんとなく取り組み続ける「惰性」などです。パフォーマンスを向上させるためには、「間接的動機」をゼロにはできなくとも、できる限り減らすことがポイントになります。

 このように考えてくると、慶応高校の姿がとても科学的で、理にかなったものであることがわかります。高校野球においても、このような望ましい地殻変動が起きています。スポーツ界全体でもその機運は高まっています。このような流れが、学校やビジネスにもっと広まることができれば、多くの人々のパフォーマンスを上げることができ、同時にウェルビーイングに近づくことができるのだと思います。

代表理事 横田 秀策

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