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師走

2022.12.10

 

師走

 師が走ると書いて「師走」。私は長く専門学校や大学で先生をしておりますが、「師走」だから走ることはありません。って、私の場合は常日頃走っております(笑)。天神で私を見かけた方々がことごとく、「あまりに急いでいたから声を掛けなかった」と言われるほどです。

 働くお母さん(ワーキングマザー)はだいたい似たような日常でしょうか。朝、家を出て職場へ、職場を出るとそのままマーケットへ。その間、あの子を塾へ、この子をサッカーへ送ればお迎えに行き、時には掛け持ちで次の場所へ送り。食事の用意をして片付けて。

 歩いて移動なんて考えられません。まさにタイムプア。自分の為の時間はいつやって来るのでしょうか?

 少し話がそれてしまいました。「師走」の由来ですが、走るのは師。師は僧侶を指すそうです。昔は年の瀬にもお盆と同じように、自宅に僧侶を招いてお経をあげてもらっていたそうで、お坊さんにとって12月はとても忙しい書き入れ時でした。

 お坊さんと言えば。今年も11月、紅葉が美しい季節に無事京都への一人旅が叶いました。私の場合、旅に出ない限り一人になることがありません。夫やら息子やら母やら、犬、猫、猫等、毎日ワンサカワンサカと暮らしております。自分の為にだけある時間にどれ程憧れを抱いていることか。私の一日にだけ、時間泥棒がいるのではないかと思えるほどです。

 自分にとって緊急度は高くないが重要度が高い時間を持つことを「タイムリッチ」と言うそうです。アシュリー・ウィランズの著書「TIME SMART」に詳しく著されています。気になる方は是非お読みください。

 京都では確かに「あれも見たいこれも。あのお寺にもこの神社にも行かなきゃ」的な強迫観念に襲われることもありますが、今回は「TIME SMART」に従って行動してみました。自分自身が価値を感じるもの、アシュリーはそれを片付けの達人近藤麻理恵(コンマリ)さんにならって「ときめく」と言う言葉で表現しています。

 「ガイドブックに紹介されているから」。ではなく、その場所にときめくかどうか。

 今回の旅で最も「ときめいた」場所は祇園花見小路にほど近い「然美(さび)」での体験です。僅か8席、立礼茶室と銘打たれた場所は流行りの言葉で表現するとミニマムでしょうか。黒とグレーを基調とした店内に無駄な装飾は一切なく、黒塗りのカウンターにともされる器と和菓子。お茶をベースに点てられたオリジナルのカクテル。上質な玉露とほうじ茶、煎茶。菓子はどれも繊細で美しく、菓子そのものが唯一の華やかな装飾のようでした。

 お一人参加の方も多く、ほとんど言葉も交わされない空間でお茶を点てる音だけが聞こえる。ともされるお茶と菓子に向き合う。そして日常をどこか遠くに置いてくる。

 「食す」ことに集中する自分自身は、何やら禅の世界を垣間見ているような心持になりました。メディテーションは滅法苦手なくせに。

 京都から戻るとまた、慌ただしい日常も戻ってきました。今の私にとってタイムリッチな時間とは日常を離れて一人を満喫できる時間を指すのでしょう。当分の間、そうなのです。

専務理事 由木 千尋

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